演奏解説

  • Ⅰ PalestrinaのMISSA曲を歌うにあたって ―ミサとは
  • Ⅱ「ミサ」と「最後の晩餐」
  • Ⅲ 泰西名画を思い浮かべつつ…~松井先生のご指導から(Credo関連)~

Ⅰ PalestrinaのMISSA曲を歌うにあたって ―ミサとは―
. アルマでは今年度から松井義知先生を客演指揮者としてご指導いただくことになり、今年はPalestrinaのミサ曲を歌うことになりました。これまでに3回練習がありましたが、松井先生から「〇〇小節から△△小節までは聖霊に関する場面…。場面場面を考えて歌わなければ…」などと、私たちのどこをとっても同じ金太郎飴式の歌い方についてのご指摘がありました。

. なるほどその通りですが、私たち(アルマ団員のすべてであるかどうかは分かりませんが…)はカトリック信者ではなくミサを経験したことがありませんし、ラテン語で書かれたミサ通常文にも不慣れで、はなはだ歌うイメージに欠けます。
. それで私はアルマがこの曲を歌うにあたって、「ミサ」と「ミサ曲」について少し書いてみようと思いました。

. 私はカトリック信者ではなく、カトリック教会のミサに出席した経験もごく僅かしかありませんが、昭和20年代の中学1年から高校卒業までプロテスタント教会である関西学院教会に通い、その後もキリスト教に関心は持ち続けていました。
. プロテスタント教会では「ミサ」はありませんが、カトリックもプロテスタントも(そして正教も聖公会も)重要な教義は共通していますので、そこで得たわずかな知識の上に立って書物の力を借りながらこの一文を書いてみます。
. 少しでもアルマ諸兄のお役にたてば幸いです。これから述べる話はあまり面白くないかもしれませんが、辛抱して最後までお付き合いくださいますよう。
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Ⅰ 「ミサ」とは
. ミサはカトリック教会の典礼の中心をなす祭儀です。このミサにおいてカトリック教会に伝えられているキリスト教の信仰内容が祭儀の形をとって儀式的に具現化されています。

. 現在、キリスト教会は大きく四つの教会に分かれています。
. 11世紀のキリスト教会東西分裂により正教会(東方教会)とカトリック教会(西方教会)に分かれ、さらに16世紀になってマルティン・ルターなどによる宗教改革によってプロテスタント教会がカトリック教会から分離し、また、英国王ヘンリー8世の離婚問題に端を発する政治問題によりカトリック教会から英国国教会(⇒これを母体とする聖公会)が独立することにより、今ではキリスト教会は大きくこの四つの教会に分かれています。

. 「ミサ」はカトリック教会において「聖体の秘跡」が行われる典礼を指す言葉で、カトリック教会で最も重要な典礼儀式です。
.「聖体」とはイエス・キリストの体と血で、パンと葡萄酒という外観をとります。「秘跡」(サクラメント)とは神の見えざる恩寵を儀式の形をとって、具体的に見える形で表すことです。
. 秘跡には「聖体の秘跡」のほか「洗礼の秘跡」、「堅信の秘跡」、「悔悛の秘跡」など7種類が定められています。
. この辺りのことはカトリック信者ではない私たちには分かりにくく、今回のこの文章は「ミサ曲」に関することが中心テーマですので、説明はこれだけにとどめます。
.「ああ、そうか」という程度にしておきたいと思います。
. さあ、これからいよいよ「ミサ」及び「ミサ曲」についての内容に入っていきますが、その前にその前提となるキーワードを二つ、見ておきましょう。

. その一つは私たちがレオナルド・ダ・ヴィンチの名画でなじみのある「最後の晩餐」であり、あと一つは「三位一体」です。
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「最後の晩餐」
. イエス・キリストが死の前日、つまり十字架にかけられて死ぬ前夜に、12人の弟子とともに祝った晩餐のことです。
. イエスはパンと葡萄酒を祝福して弟子に与え、これを人類の罪の赦しのための犠牲として十字架につけられる自分の体、流される血であるとしました(新約聖書マタイ伝福音書26章、マルコ伝福音書14章、ルカ伝福音書22章など)。
. イエスの亡き後も初代教会の信徒はしばしば集まり、この晩餐に倣いパンと葡萄酒を食することによって、キリストの死を記念しました。
. この祝餐はキリストの恩恵を信徒に分かち与える秘跡(サクラメント)として、後代に引き継がれ、キリスト教会の最も中心的な典礼となりました。
. カトリック教会では、これをミサといいます。
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「三位一体」
. 本来は一つのものですが、三つの位相を持つものをいいます。
(キリスト教で)具体的には、一つの神が三つの姿になって現れる、という考え方で、キリスト教の根幹的な教義です。
. 三つの位相とは、「父なる神」、「キリスト」、「聖霊」で、神はこの三つの姿で現れますが、本質的には一つだというもの。
. 聖霊は、人々に働きかけ、啓示を与え、聖化へ導き、神の業を遂行するはたらきをします。

これらを一通り頭に入れておいていただき、次に「ミサ」の形式、内容及び「ミサ曲」へと進めていきます。
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Ⅱ 「ミサ」の内容、形式
. ミサは大きく分けて二つの部分から成っています。
(第一の部分)
. 最初の開祭の儀式に続いて聖書の朗読が行われます。そのあと、司祭によりそれに基づいた説教があり、続いて全員で信仰宣言を唱え、共同祈願を捧げます。
(第二の部分)
. パンと葡萄酒が奉納され、司祭がイエスの最後の晩餐のことばを中心とする奉献文と呼ばれる祈りを唱えます。
. これに続いて参会者は主の祈りを唱えた後、聖体(パンと葡萄酒)を拝領し、感謝の祈りを捧げ、司祭の祝福を受けてミサは終わります。
. この第二の部分は、イエス・キリストが最後の晩餐のときに行ったことを儀式的に実現しているのです。

. ミサは、その起源から千数百年の間に、内容、形式ともに時代と共に変遷していますが、今日に至るカトリック典礼の基本的な構成は16世紀半ばに行われたトリエント(トレント)公会議で定められたもので、ミサ曲を聴いたり歌ったりする上で重要なのはトレント式典礼(トリエント・ミサ)です。
. それで、以下、トレント式典礼によるミサの式次第によって書き進めます。Palestrinaは青年期20歳のころにトレント公会議を迎え、壮年期に公刊された統一ミサ典書をみて、トレント公会議から大きな影響を受け、ミサ曲の作曲にとくに力を注いだそうです。
. その数は100曲を超えるといわれ、それ程の数のミサ曲を作った作曲家は他にありません。
現在では1962年から65年にかけて行われた第2ヴァティカン公会議後、パウルス6世が発布した「改訂ローマ・ミサ典礼書」に基づいてミサが執り行われています。
. これにより、伝統が尊重されたうえで現代的に刷新されたミサが行われるようになりました。
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. 特に、それまではラテン語のみと定められていた典礼での言語をそれぞれの国の言語を用いて執り行われるようになっています。
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【ミサ式次第】(トレント式典礼による)
. ミサを構成する祈りの文のうち、当該ミサが執り行われる日(教会暦日、季節など)や目的によって変わらないものを通常文、日や目的に応じてそのミサだけに固有な内容を持つものを固有文という。以下、次の記号で表す。<通常文の聖歌…●  固有文の聖歌…〇>

1 開祭
. 〇聖歌 イントロイトス(Introitus) 入祭唱
…●聖歌 キリエ(Kyrie) 憐みの讃歌
…●聖歌 グローリア(Gloria)  栄光の讃歌
…司祭による  オラーツィオ(Oratio) 入祭祈願

2 ことばの典礼
. 副助祭による  エピストゥルム(Epistulum) 使徒書簡(聖書)朗読
.. 〇聖歌 グラドゥアーレ(Graduale) 昇階唱
.. 〇聖歌 アッレルーヤ(Alleluja) アレルヤ唱
.. 〇聖歌 セクエンツィア(Sequentia) 続唱
…助祭による  エヴァンジェリウム(Evangelium) 福音書(聖書)朗読
….●聖歌 クレード(Credo) 信仰宣言

― - ― ここまでが(第一の部分) ― - ―

3 感謝の典礼
.. 〇聖歌 オッフェルトリウム(Offertorium) 奉献唱
.. 司祭による セクレータ(Secreta) 密唱
.. 司祭による プレファッィオ(Praefatio) 叙唱
…●聖歌 サンクトゥス(Sanctus) 感謝の讃歌
…司祭による カノン・ミッセ(Canon missae) ミサの典文

4 閉祭
. 司祭による パーテル・ノステル(Pater noster) 主祷文
…●聖歌 アニュス・デイ(Agnus Dei) 平和の讃歌
.. 〇聖歌 コンムニオ(Communio) 聖体拝領唱
…司祭による ポストコンムニオ(Postcommunio) 聖体拝領後の祈り
…●聖歌 イテ・ミッサ・エスト(Ite missa est) 解散の言葉(閉祭)

― - ― 以上の 3、4 が(第二の部分) ― - ―
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Ⅲ 「ミサ曲」について
. ミサの楽曲部分は「固有唱」(proprium)と「通常唱」(ordinarium)とに2大別されますが、15世紀中ごろに5つの通常文をセットにして作曲する「ミサ曲」が確立して以来、ミサ曲といえばミサ通常文を歌詞とする多声的作品を意味するようになりました。
. 各章は先述の「三位一体」(父なる神、子なるキリスト、聖霊)に対応しており、“Gloria”、“Credo”のように3部構成になっていたり、“Kyrie”、“Sanctus”、“Agnus Dei”のように3回のくり返しになっているなど、「3」を基本に構成されています。
1 Kyrie(憐みの讃歌)
…Kyrie, eleison      主よ、あわれみたまえ
…Christe, eleison     キリストよ、あわれみたまえ
…Kyrie, eleison      主よ、あわれみたまえ
. このPalestrina曲1小節から13小節まで“Kyrie, eleison”を3回、14小節から29小節まで“Christe, eleison”を3回、30小節から曲の終わり(45小節)まで“Kyrie, eleison”を3回という構成になっており、三位一体への祈りが各3回と考えられています。
. ミサ通常文でこの“Kyrie”だけがギリシャ語。Kyrieは「主」、Christeは「救い主(キリスト)」、eleisonは動詞「あわれむ」の命令形。主イエス・キリストに対する救いの嘆願ですが、イエスが人間の罪を贖うために十字架にかけられたイエスの慈しみの大きさをほめ称えるものであるとも説かれています。
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2 Gloria(栄光の讃歌)
. “Kyrie”が主イエス・キリストに対する救いの嘆願であるのに対して、“Gloria”はそれと対照的に救われた者の喜びの歌、歓喜の頌歌です。
. 慈しみ深い父なる神への栄光の歌です。冒頭の詩句“Gloria in excelsis Deo. Et in terra pax hominibus bonae voluntatis. ”(いと高きところでは神に栄光が、地上では善意の人びとに平和がありますように)の出典は新約聖書ルカによる福音書第2章14節で、天使たちが神を賛美して「いと高きところでは、神に栄光があるように、地の上では、御心にかなう人々に平和があるように」と言ったと記されています。
. このPalestrina曲では“Et in terra pax hominibus bonae voluntatis. ”から始まっていますが、これは“Gloria in excelsis Deo.”を司式司祭が先唱し、続いて聖歌隊または会衆が“Et in terra…”から歌い始めるためです。全体は「父」、「子」、「聖霊」の聖三位を賛美する歌となっており、次のように構成されています。
◆父なる神を讃える部分
. “Gloria in excelsis Deo.”(いと高きところでは神に栄光が)から“Deus Pater omnipotens”(全能の父なる神よ)までの部分で、この曲では1小節から22小節までがこれに当たります。
◆子なるキリストを讃える部分
. “Domine Fili unigenite, Jesu Christe.(主なるひとり子イエス・キリストよ)から“Tu solus Altissimus. Jesu Christe.”(あなただけが至高なる方、イエス・キリストよ)までの部分で、この曲では22小節から56小節までがこれに当たります。
◆聖霊を讃える部分
. “Cum Sancto Spiritu, in gloria Dei Patris. ”(聖霊とともに、父なる神の栄光のうちに)だけの短いものとなっています。
. この曲では56小節から最後の67小節までがこれに当たります。
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3 Credo(信仰宣言)
. ミサ式典中に行われる聖書朗読や説教による神の言葉を聞いた信徒が、これを受け入れ、信仰を告白、宣言するのがCredoです。
. このPalestrina曲では“Patrem omnipotentem,”(全能の御父を)から始まっていますが、これは“Gloria”と同じように“Credo in unum Deum.”(わたしは信じます、唯一なる神を)を司式司祭が先唱し、続いて聖歌隊または会衆が“Patrem omnipotentem,”から歌い始めるためです。
. この“Credo”も“Gloria”と同様、全体は「父」、「子」、「聖霊」の聖三位に対応しており、次のように構成されています。
◆父なる神に対応する部分
. “Credo in unum Deum.”(わたくしは信じます、唯一なる神を)から“et invisibilium”(また見えないものの造り主を)の部分までで、この曲では1小節からT1,T2が10小節、B1,B2が11小節までがこれに当たります。
◆子なるキリストに対応する部分
. “Et in unum Dominum Jesum Christum”(また唯一なる主イエス・キリスト)から“cujus
. regni non erit finis.”(その王国は終わることがありません)の部分までで、この曲では11小節から82小節までがこれに当たります。
◆聖霊に対応する部分
. “Et in Spiritum Sanctum,”(また聖霊を(信じます))から“qui locutus est per prophetas. ”(預言者を通じて語られていた方を)までの部分で、この曲では83小節から105小節までがこれに当たります。
. そのあと、教会(Ecclesiam)、洗礼(baptisma)、死者の復活(resurrectionem mortuorum)と来世の命(vitam venturi saeculi)への信仰告白があって終わります。
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4 Sanctus(感謝の讃歌) Sanctus et Benedictus
. この章はSanctusで始まる前半部分と Benedictusに続く後半部分とから成り立っています。
. この両者を合わせてSanctus(感謝の讃歌)ですが、この二つの部分の間にミサの典文が読まれ、聖変化の儀式で中断されるため別々のような形になっています。
. Sanctusの出典は旧約聖書イザヤ書第6章3節で、天使たちが神の栄光に満たされながら「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の主、その栄光は全地に満つ」と歌っています。
. Benedictusの出典は新約聖書マタイ伝福音書第21章9節。ロバに乗ってエルサレムに入城してきたイエスを「主の御名によって来る者に祝福あれ。いと高きところに、ホサナ」と歓呼の声で迎えた民衆の歌です。
. Sanctusの結びの句とBenedictusの結びの句は全く同一(Hosanna in excelsis.)ですので、そこに同一旋律を配して楽曲としての統一性が図られることが多く、このPalestrina曲でも同一旋律ではありませんが、同じ類型の旋律が配されています。
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5 Agnus Dei(平和の讃歌)
. ローマ教会では700年ごろ、教皇セルギウス1世により、聖体拝領の直前に会衆のためのパンを裂くときの聖歌としてミサに導入されました。
. ミサに参加した会衆のために大きなパンを聖別して裂くので、時間がかかったため、その式の間に一つの歌を歌うようになったのがこの“Agnus Dei”です。その後、円いホスチア(小さなパン)が用いられるようになり、この儀式が不要になって、12世紀からは長大な歌から現在の3部構成の比較的短い歌になったようです。
…Agnus Dei, qui tollis peccata mundi : miserere nobis.
….神の子羊、世の罪を取り除かれる方よ、われらを憐みください
…Agnus Dei, qui tollis peccata mundi : miserere nobis
….神の子羊、世の罪を取り除かれる方よ、われらを憐みください
…Agnus Dei, qui tollis peccata mundi : dona nobis pacem.
…神の子羊、世の罪を取り除かれる方よ、われらに平安をお与えください。
. このPalestrina曲では、第1小節から第35小節までが、第1部と第2部、36小節から終わりの48小節までが第3部となっており、22小節から35小節まで同一パートに“miserere nobis.”と“dona nobis pacem”を重ね合わせて歌わせることによって、全体として3部構成の楽曲としているようです。
(ただし、今回は重ね合わせて歌わず、miserere nobisのみで歌おうと考えている、と松井先生はおっしゃっています)
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. ミサは私たちの普段の生活の中にない事柄ですので、説明が行き届かず、したがって分かりにく
い解説になったと思います。ここまで読んでくださった方に感謝申し上げます。Palestrinaはもとより沢山の作曲家がミサ曲の名曲を書いていて、これからも歌ったり聴いたりすることが多いかと
思われますので、その際にもお役にたてば幸いです。      2018・5・31

(参考及び一部引用文献)
. 旧約聖書
. 新約聖書
. 宗教音楽対訳集成  吉村 恒 篇  国書刊行会
. 新訂 合唱事典  音楽之友社発行
. ミサの鑑賞 -感謝の祭儀をささげるために-  カトリック東京教区司祭 吉池好高 著
.
Ⅱ 「ミサ」と「最後の晩餐」
. 「ミサ」は、ローマ・カトリック教会における聖体拝領の祭式、つまりパンと葡萄酒を聖別して聖体の秘跡が行われる典礼であり<聖体とはイエス・キリストの身体と血で、パンと葡萄酒という外観をとる。秘跡とは神の見えざる恩寵を儀式の形をとって具体的に見える形で表すこと>、司教または司祭が司式し、信者全体が捧げるものと位置付けられているカトリック教会で最も重要な典礼儀式です。
. ミサは「感謝の祭儀」とも言い表され、「イエス・キリストの死と復活を記念し、その復活の恵みに与る、喜びに満ちた感謝の祭儀」であることを示しています。
. ミサは大別して二つの部分に分かれます。その第一部は、開祭の儀式と聖書朗読等のことばの典礼といわれる部分からなり、Kyrie、Gloria、Credoはこの中で歌われます。
. 第二部はパンと葡萄酒が奉納され、司祭がイエスの最後の晩餐の言葉を中心とする祈りを唱えます。
. これに続いて参会者は主の祈りを唱えた後、聖体(パンと葡萄酒)を拝領し、感謝の祈りを捧げ、司祭の祝福を受けてミサは終わります。
. Sanctus、Benedictus、Agnus deiは第二部の中で歌われます。
. 全体として、キリストの聖体を中心とするこの第二の部分はミサの中心、頂点であり、ミサが「最後の晩餐」に由来する、といわれるのも肯けます。
.「最後の晩餐」は、新約聖書マタイ福音書、マルコ福音書、ルカ福音書、ヨハネ福音書の4大福音書に記述があり、キリストがローマ皇帝の代官ピラト総督に捕らえられる前夜に高弟の十二使徒とともにした最後の食事です。
. ここでイエスは、彼らのうちの一人が自分を裏切るであろう、と告げました。
. 下の絵は、レオナルド・ダ・ヴィンチの有名な「最後の晩餐」です。
. この絵は、晩餐の風景ではなく、裏切りを告げる場面です。(結局、最後に裏切ったのはユダでした)。
. ルネサンス期以前の「最後の晩餐」の絵は、晩餐の場面が描かれていたようです。

. (2018.9.28 )
.
Ⅲ 泰西名画を思い浮かべつつ…~松井先生のご指導から(Credo関連)~
. Palestrina“Missa Aeterna Christi Munera”のCREDOで、それまで ♩=120で進んできたテンポが、楽譜9頁2段目に入ったところから、松井先生は「少しテンポを緩めます」とおっしゃり、そして41小節からテンポを ♩=80 と指示された。
. このときそこのところで『情景があって、それに歌をつけるように』歌うことと言われ、楽譜3段目では『名画を思い浮かべて歌ってください(絵画はどれでも結構です)』と言われた。このことは確か5月の練習日と9月5日の練習日で2度おっしゃった。
名画を思い浮かべつつ…、とは。さて、どんな名画を思い浮かべるのか。松井先生ご指示の箇所のCREDO通常文は次の通りである。
Et incarnatus est de Spiritu Sancto そして聖霊により
ex Maria Virgine               処女マリアから肉体を受け
et homo factus est              人となられた
. このあと、「(そしてイエス・キリストは)われら(人類)のために十字架にかけられ、ポンツィオ ピラトのもとで苦しみを受け、葬られたが、三日目に復活された」と続く。
.
. CREDO通常文のこの詞から思い浮かぶのは、「受胎告知」と「キリスト降誕」であろう。
. 受胎告知は、新約聖書の四福音書の一つである「ルカによる福音書」第1章26節から38節にその記述がある。
. その要旨は次の通りである。
. ナザレの村に住む処女マリアのもとに神から遣わされた天使ガブリエルがやってきて、「おめでとう、恵まれたお方。主があなたとともにおられます」といった。
. マリアはこの天使の言葉にひどく戸惑っていると、天使は「マリアよ、こわがることはなにもない。あなたは神から恵みを受けたのです。あなたは身ごもって男の子を生むでしょう。その子をイエスと名づけなさい。その子はすぐれた者となり、いと高き方の子と呼ばれるでしょう」と答えた。
. そこでマリアは天使にこう言った。「どうしてそんなことがあり得ましょうか。私にはまだ夫がありませんのに」と。
. すると天使は「聖霊があなたの上に臨み、いと高き方の力があなたを覆います。
. それゆえ、生まれてくる子は聖なるものであり、神の子と呼ばれるでしょう」と答えた。
. そこでマリアは言った、「ほんとうに私は主のはしためです。
. どうぞ、あなたのお言葉どおりこの身になりますように」と。
. こうして天使ガブリエルはマリアから去って行った。

.「受胎告知」は多くの画家が取り上げ、沢山の名作が生まれている。
. この限られた紙面にどれを掲載するか、選んだそれが松井先生のイメージに合っているか、悩むところであるが、私は次の3点を選んだ。
. A レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519) イタリア ルネサンスの巨匠
. B フラ・アンジェリコ(1390頃~1455) イタリア ルネサンス初期 修道士
. C ムリーリョ(1617~1682) スペイン バロック期 初期はテネブリズムの影響
では、それぞれの絵を見ていこう。
.
A レオナルド・ダ・ヴィンチ (フィレンツェ ウフィツィ美術館蔵)
..
.
.B フラ・アンジェリコ (マドリード プラド美術館蔵)
..
.
.C ムリーリョ (マドリード プラド美術館蔵)
..
. 名画といわれるこれら3枚の絵は、同じ主題を描きながらあまりの違いに驚かされるだろう。
. これは作者の個性の違いもあるが、主として時代の相違による様式の違いによる。
. マリアの服装がいずれも赤い衣に青いマントを羽織っているのが共通しているが、これは西洋美術史学の一分野である図像学(Iconography)にアトリビュート(持物じもつ)という概念があって、その人の属性を規定しているが、それによるものである。
. バラの花を持った裸体の女性は「ヴィーナス」、獲れた魚をぶら下げて歩いている青年は「孝行息子のトビアス」、棕櫚の枝を左手に持っている人は「殉教者」、といった具合である。
. また、B の絵で左上から差し込む神からの光線の中に「鳩」が見え、Cの絵でも天使とマリアの頭上に「鳩」が飛んでいるが、図像学では「鳩」は聖霊の象徴とされている。
. Aの絵で大天使が捧げ持ち、Cの絵でマリアの右の机上の花瓶に生けられている「百合」は純潔の象徴である。
.「受胎告知」を受けたマリアは、①最初は驚き、②次いで胸騒ぎがし。③そして天命を受け入れ神の僕として従順に、という経過をたどるが、マリアの表情を見るとAの絵は①の、Bの絵は②の、Cの絵は③の表情をしているように見える。
.
. 次いで「キリスト降誕」の絵であるが、ここではヘラルト・ファン・ホントホルスト(1592~1656)の「キリストの降誕」を掲げる。
. ホントホルストはオランダの画家である。
. ローマ皇帝アウグストゥスの勅令で人口調査が行われ、人々はおのおのの出身地の役所で登録しなければならないため、ヨセフとマリアはユダヤのベツレヘムへ向かったが、途中でマリアは産気づき、近くの馬小屋の飼葉桶にイエスを産んだ。
. 新約聖書の「マタイによる福音書」、「ルカによる福音書」にその記述がある。
. ホントホルストの絵は、飼葉桶に横たわる生まれたばかりのイエスに神の光がさし、マリアと夫ヨセフ、それに祝福に訪れた牧人たちが救い主の誕生を祝っている。
.
.D ヘラルト・ファン・ホントホルスト (ケルン ヴァルラフー・リヒヤルツ美術館蔵)
..
. 多くの西欧の人びとは上述のようなことを生まれながらの基礎的教養として持っているので、使徒信条(Credo)を唱えるとき、このような情景が自ずと浮かぶのかも知れない。
. この資料がそういう意味で少しでも役立つならば望外の幸いである。 (2018年9月15日記)

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