「心の四季」に寄せて・         ・太田 茂之

 最も有名な合唱曲の一つといって過言ではない高田三郎さんの「心の四季」。
私自身には、かなりのプレッシャーがありました。

 知っている曲であればあるほどいろいろなイメージがあり、過去に名演とよばれる演奏もたくさんあるからです。
 「心の四季」のテーマは「人間の心の変化」と言ってもいいと思います。
 四季のように移り変わる人の心、ただこれは自然のように自由でかつ調和がとれた移り変わりではなく、人間の様々な都合によって移り変わる、または周りに影響され移り変わらざるを得ない心と言えるかもしれません。
 しかし、そこに矛盾や苦悩を感じつつも、それが悪いわけではなく、むしろそれが人間なのだと私は感じます。
この曲に私は、決して派手ではないが、まっすぐ進むクリスチャンとしての高田三郎の生き方を感じます。
 このような私自身の気持ちの揺らぎも、この「心の四季」のテーマに触れているのではと気づきました。
感じたまま素直に演奏することを目指し、本日の演奏をお贈りできればと思います。
.
1.風が Andante歩く速さで
 止まることのない季節の巡りが、Andanteというテンポで指定されている。
その歩みの速さは春夏秋冬で多少変化するが、歩み続けることは止められない。
その「見えない時間」のめぐりを映しながら人の心も移りめぐっていく。
「心の四季」の序章にして全曲を象徴する歌の世界。
.
2.みずすまし Moderato assai速すぎず遅すぎず
 みずすましは、予測ができない動きで水面を動く。
時には水の中にもぐったり、また浮いてきたりと。
これは自然の中での自由。それに対し、人間はこのように自由に動けない、ナニカに縛られている。
 中庸という、いたって普通のテンポを指定している。これは自然体を表すものか。
.
3.流れ Allegro Moderato 程よい速さで
 軽やかに自由に生きる、その中でもしっかり意思をもって力強く生きる。
 生きるために頑張る。川と魚と岩に託し、それぞれの生き方を対比しつつ歌う。
これもModeratoを指定。その中でもAllegroなので少し速い。
 これは川が休みなく流れていることに由来するものだろうか。
.
4.山が Adagietto ややゆったりと
 遠くから聞こえてくるやまびこのような掛け合いになっている曲。
最後はそれが呼応しあって広い世界を作る。
 Adagioはバレエでは優雅という意味、またイタリア語ではくつろぐという意味がある。
心地いいとか、そういう感覚。また、いいにおいとか、そういう空気感が広がる。
.
5.愛そして風 Lento ゆるやかに
 あたたかい。しかし、どことなく切ない。
人だけが過去の思い出に揺れ、歌わずにおれない。
 現在を流れている時間ではなく、過去に起こった出来事のフィードバックのようだ。
 香りが残っている過去の色を、Lentoのテンポ感で表現。
 動きがありすぎると「今」になってしまう。
.
6.雪の日に Andante mosso 歩きうねるように
 前から吹き付ける吹雪に対抗するような、強い意志をもって歩き続けるテンポ。
「1.風が」の「汚れを包もうと また雪が降る」の詩句に対応し、「どこに 純白な心などあろう」と、激しく降り続ける雪に、人の心を投映する。
.
7.真昼の星 Adagio ゆっくりと静かに
 星は真昼でも、あの空の奥で光っているのだ。目立たなくとも、ひそやかに変わらずに。
そのことに気づいた心にうまれ広がるもの。そのあたたかさに包まれる。
感動、そして不思議で自然な、いごこちのよさ。真昼の星のように生きようとする心が、静かに余韻となってひびく。
                                  (太田茂之)